「町全体が美術館」
建畠 晢
(
京都市立芸術大学学長
・
元国立国際美術館長
)
美術は美術館のギャラリーで鑑賞するものだと思われがちですが、実は広場や公園やビルの前など、私たちの身近な場所にも、すぐれた美術作品が数多く設置されています。公共の空間に置かれ、周囲の景観とマッチするような工夫をこらされた彫刻は、一般にモニュメント(記念碑)と呼ばれているように、私たちの町の歴史や伝統を物語ってくれる豊かなシンボルとして親しまれてきたのです。
堺でもこうした魅力的な文化財であるパブリック・アートを、さまざまな場所に見出すことができるでしょう。日ごろ目にしているだけに、かえってその面白さに気がつきにくいということがあるかもしれませんが、それぞれの物語に改めて目を向けるなら、自分たちが住む堺という町の文化の素晴らしさが、市民生活に結び付いたときより親密なものとして浮かび上がってくるに違いありません。
もちろんそれらのモニュメントは、アートとして鑑賞するにふさわしい優れた美術作品でもあります。ギャラリーとは違った日常的な場所で出会うことのできるアートは、町の彩りとして私たちの目を楽しませてくれるでしょうし、子供たちにとっても自ずと美的感受性を育んでくれる生活の中の教材になりうるのです。
こうした作品は個別には知られていても、広い地域に点在しているために、一まとまりの貴重な文化財として活用することが難しかったように思われます。どこにどのような作品があるのか、それぞれの作品は何を語ろうとしているのかを整理し、写真と簡明な解説によって公開したこのWEBサイトは、その意味で住民の方々や子供たちに、また堺の文化に関心を持つ多くの方々にとっても、大いに役立つ情報源となることでしょう。
まずこのサイトで、堺の町のアート・クルーズを楽しんで下さい。その上で、設置場所をチェックし、実際の作品に巡り合うための本当のクルーズに出ようではありませんか。「ほんもの」に直接触れ合う体験こそが、私たちのアートへの関心を呼び覚まし、長く記憶に刻まれる喜びをもたらしてくれるのです。そのことはまた、町全体が美術館であるような堺市の素晴らしさを再発見し、地域のリソースを活かしたまちづくりへの機運を高めることにも繋がっていくに違いありません。